「建築物の長寿命化に対応した建築仕上げのあり方」(芝浦工業大学 本橋健司)
環境負荷低減・低炭素社会の構築等の社会的ニーズを背景として、建築物の長寿命化を推進するためのプロジェクト研究・技術開発が活発化している。一般的に、建築仕上げは、構造体と比較して耐久性は乏しい。
講演者は、各種性能を高レベルで保持して建築物の長寿命化を達成するためには、建築仕上げの物理的耐用年数を向上させることも重要であるが、構造体の長期耐用計画に整合して、建築仕上げや設備等の長期的・戦略的な修繕・改修計画を立案し、着実に点検・診断・補修・改修・転用等を実施することの方がより重要であると考える。
このような観点から、外装仕上げを例として、建築物の長寿命化に対応した建築仕上げのあり方について議論する。
「塗装仕上げにおける環境配慮技術」(ものつくり大学 近藤照夫)
建築物の内外装仕上げには現場塗装や工場塗装製品が多数適用されているが、塗装に適用される材料には地球環境や人間の健康安全に影響を与える化学物質が含まれており、塗料や塗装工事に対する法規制が強化されている。現場塗装に対しては、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修
公共建築工事標準仕様書や日本建築学会編建築工事標準仕様書・同解説JASS 18 塗装工事 によって環境配慮が推進されており、周知のとおりである。
一方、工場で加熱硬化形(通称;焼付け)塗装が施されているアルミニウム合金材料に対しては、本会編による標準仕様書が3年ほど前に発刊されている。しかし、現状における素地調整にはクロム酸クロメート系薬剤を用いる化成処理が、塗装には溶剤系ふっ素樹脂塗料が主に適用されている。これらは環境や健康に対する影響が懸念されるため、本会では焼付け塗装環境保全研究委員会を設置して、クロムフリー化や脱溶剤化の研究開発を推進している。これらの研究成果をご紹介して、ご参加の皆様とともに今後の方向性を議論したい。
「資源循環型社会における建築仕上げ材料」(明治大学 小山明男)
建設産業は我が国の資源利用量の約40%を建設資材として消費する一方で,産業廃棄物全体の最終処分量の30%程度を建設廃棄物として処分している。したがって,循環型社会経済システムを構築するにあたっては,建設産業の責務は重く,建設産業が先導的にリサイクル推進に取り組む必要がある。
また,今後は建築物の更新等にともなって,建設副産物の排出量が増大すると予想される。多岐にわたる仕上げ材は混合廃棄物となりやすく,これらを適切に分別解体し,リサイクルしていくことが求められ,建築仕上学会をはじめ多くの研究機関において取り組みが行われている。
このような観点から,最近の事例を紹介しながら,資源循環型社会に対応した建築仕上げ材料のあり方について議論する。
「コンクリート建築物の長期耐久性予測と建築仕上げ」(東京理科大学 兼松学)
建築物の長寿命化は、環境負荷を低減させ持続可能な社会を実現させる重要な手段の一つである。コンクリート構造物の耐久性は古くから多くの研究蓄積がなされており、最近では多くの精緻なモデルによる長期耐久性予測が試みられている。その一方で、コンクリート構造物の長寿命化あるいは延命には塗装が有効であることは古くから指摘されているものの、その持続性が疑問視されることから、ごく一般的に表層に用いられる材料でありながら耐久設計においてはあまり積極的に考慮されてこなかった。しかしながら、近年では維持保全を考慮に入れた耐久性予測がなされることも少なくなく、仕上げ材を考慮に入れた長期耐久性予測技術が確立しつつある。
そこで、ここでは、近年のコンクリート構造物の長期耐久性予測手法における建築仕上材の評価手法について概観する。
「リジェネレーションにおける仕上材料の美観維持」(首都大学東京 橘高義典)
最近は単なる改修だけではなく、古い建物の良さを維持しつつ新たな価値を創出するリフォーム・リニューアルが注目されている。例えば、歴史的建造物の外装仕上げはそのままで建物の用途をコンバージョンする例、古い建物の内装仕上げを一部残したリニューアルなどである。既存の建物の良さを次世代に引継がせるという意味で建物のリジェネレーションと言ってもよい。ここでは、多様な建物のコンバージョンでの仕上材料の使われ方,植栽等による美観維持、外観に大きく影響する外装材料の色彩の役割などについて、いくつかの事例を紹介するとともに、リジェネレーションにおける仕上材料の美観維持の手法について述べる。
パネルディスカッション「建築仕上げ研究・技術開発のこれから」
コーディネーター:タイセイ総合研究所 杉本賢司
パネラー:本橋、近藤、小山、兼松、橘高
パネラーの講演を踏まえて、これからの建築仕上げ研究・技術開発を進めて行く上で、社会的ニーズ・問題認識、シーズ技術、方法論等について、会場を含めて幅広い意見交換を行う。
|